☆労災保険(業務災害・通勤災害)の対象となるためには、その災害について、
それぞれ(業務災害・通勤災害)、要件を満たしている必要があります。 それぞれについて、具体例とともに見てみましょう。
◇業務災害の場合の要件(2つとも満たすこと) ・業務遂行性・・・事業主の指揮命令の下で労働を提供している過程であること。 ・業務起因性・・・災害の原因が業務であること。
◆<業務災害の具体例>
A.業務遂行中の災害は? ⇒業務災害はその大部分が作業中に発生し、作業中に発生した災害は、 「一般的に」業務災害と判断されます。 (当然、状況により業務災害とされない場合もございます。)
B.作業中断中の災害 例)トイレのために席を離れている際の災害は?
⇒直接業務を行っていない時間であっても、 生理的必要性によるものであり、 労働者として避けられないもの、通常誰でも行う行為として、 業務行為に付随する行為ととらえられる行為については、 作業中断による行為中(トイレに行っている間)の災害も、 業務に起因した災害と判断されます。
⇒ただし、その作業の中断が当該労働者の恣意的行為や私的行為 によるものである場合は、 業務に付随する行為と認められない場合があります。
例えば、一概に結論付けることはできませんが、 離席して自分のスマホで私的な電話をしていたり、 メール対応している際の災害などは、 業務災害と認められないこともあり得ますのでご留意ください。
C.休憩時間中の災害 例)会社の外のレストランに行って昼食中の災害は?
⇒休憩時間中は、原則として自由行動が許されていることから、 その時間帯における個々の行為は私的行為となるので、 例えば会社の外のレストランへ食事に出かけ、 そのレストランの階段で負傷した場合などは、 労災の対象とはなりません。
しかし、事業場施設内(社員食堂など)で食事中の災害は、 事業主の支配下にあると判断され、 生理的必要行為、合理的行為と同様と判断され、 労災の対象と判断されることになります。
Ⅾ.出張中の災害 例)出張中の空き時間を利用して隣県の観光地を訪問中の災害は?
⇒一般的に、出張は事業主の命令により特定の用務を遂行するため、 通常の勤務地を離れて任地に赴いてから、 用務を終えて戻るまでの一連の過程をすべて含むといえるので、 出張過程の全般について事業主の支配下にあるとされ、 その過程全般に業務遂行性があることになります。 (原則は、出張中のすべての行程が労災の対象)
したがって、その間の個々の行為が、出張に当然に伴う範囲 (必要な移動、食事、宿泊等)である限り、業務起因性が認められます。
しかしながら、 積極的な私用・私的行為・恣意的行為中における災害、 例えば順路を逸脱しての観光中とか、 映画を見に行っている間の負傷などは、 業務遂行性が否定されることになります。 (その間は労災の対象にならないということ)
例)出張中の夕食の際に飲酒していたときの災害はどうでしょうか?
⇒1杯程度なら業務遂行性が認められるようですが、 その状況や飲酒量等により判断されることになるため、 「絶対に〇又は絶対に×」と言えません。 ご留意ください。
◇通勤災害の場合の要件 ①住居と就業の場所との間の往復 ②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動 ③①の往復に先行し、又は後続する住居間の移動であって 所定の要件に該当するもの
・「通勤」とは、「労働者が」「就業に関し」「住居と就業の場所との間を」 「合理的な経路及び方法により」往復すること、です。
・そして、原則として、(以下のとおり、例外があります) 一回通勤経路から外れると、経路から外れた以降は、 通勤災害の対象とはなりません。
(例外1) ・ただし、経路から外れたことが 「日常生活上必要な行為」であって、 やむを得ない事由(厚生労働省令)により行うための 最小限度のものである場合は、その逸脱又は中断の間を除き、 通勤労災の対象になります。 (例えば、日用品の購入、病院受診、選挙権行使、家族介護など)
(例外2) ・また「ささいな行為」と認められる行為については、 通勤途上すべてが通勤労災の対象となります。 (例えば、通勤経路近くの公衆トイレ使用、通勤経路上の店での短時間のお茶など)
◆<通勤災害の具体例>
A.午後からのシフトであるにもかかわらず、朝から出勤した場合は?
⇒所定の始業時刻とかけ離れた時刻における移動行為は、 就業との関連性が認められない場合があります。 ただし、具体的な時間差が決まっているわけではありませんので、 ご留意ください。
B.出勤しようとして家を出たが、途中で体調不良で自宅に戻ろうとした際の災害は?
⇒会社にその旨を連絡していれば「就業のため」を立証できますが、 連絡をしていない場合、就業のための通勤途中だったか否かを問われ、 通勤災害の対象とならない場合もあり得ます。
C.夜、飲食後友人宅に泊り、友人宅から出勤する途中での災害は?
⇒「住居」からの通勤とは認められず、 通勤災害の対象にならない可能性があります。
⇒ただし、電車事故や台風などによって帰宅困難となり、 緊急的に会社近くのホテルに泊まった場合などは、 やむを得ない事情で住居の場所が移ったとして、 その宿泊先が住居と認められ通勤災害の対象になります。
⇒また、早出や残業のために別に借りているマンションに泊り、 そこから通勤するような場合の自宅とマンションについては、 双方が「住居」と認められる場合もあります。
D.会社に申請した通勤経路・方法と異なる通勤経路の途中での災害は?
⇒例えば、 ・会社がマイカー通勤を禁止されているにもかかわらず、 マイカー通勤の途中で事故に遭った場合や、 ・バス通勤と会社に申請しているにもかかわらず、 自転車通勤して災害に遭った場合、 などであっても、
それが、合理的な経路及び方法による通勤と認められれば、 たとえ会社に申請している通勤方法と異なる通勤方法であっても、 通勤災害と認められることになります。
注意!⇒ただし、 会社内における「虚偽申告」「経費の不正請求」「懲戒処分」など、 労災保険とは別の問題が発生する可能性がありますので、 十分ご留意ください。
E.出勤のため自宅マンションの部屋を出た後、共用エレベーターでの災害は?
⇒どこからが「通勤」となるかの境目の問題となります。 ・マンションの場合は、自宅玄関の扉が境目になります。 ・一戸建ての場合は、自宅敷地の門扉(敷地自体)が境目になります。
⇒つまり、「公共の場(他の人が自由に通行できる場)」に出てからが、 通勤災害の対象となります。
⇒したがって、上記の共用エレベーターに乗る際の出勤中の災害は、 通勤災害の対象になるということになります。
F.副業をしている場合で、前の職場から次の職場への移動途中での災害は?
⇒原則、「後の職場」の通勤災害(出勤途中)の対象となりますが、 そもそも労災保険の対象となる働き方をしているか否かなど、 必ず通勤災害の対象になるとは断言できませんので 事前にご確認ください。
※上記は、あくまで一般論について参考までに記載したものです。 実際は、上記には記載していない細かい規定がたくさん定められています。
※労災保険の対象となるか否かにつきましては、 個々の状況を確認したうえで、労働基準監督署が個別に判断いたします。 その点につきまして、十分ご留意ください。 |