★東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授による労働法学研修(第十二回)を受講いたしました。
◇今回のテーマは、 「非正規労働者」 についてでした。
<非正規労働者の雇用状況>(労働法第7版/水町勇一郎先生著より) ■近年、非正規労働者の数が急速に増加しています。 ■平成24年のデータで、 非正規の職員・従業員の数は2042万人に達し、全雇用者(役員を除く)の38.2% を占めるに至っています。 ■平成4年の同調査では、 非正規の職員・従業員の数は1053万人、全雇用者中の割合は21.7%であり、 20年でその数はほぼ倍増しています。 ■平成24年の全雇用者に占める割合は、 パート17.9%、アルバイト8.2%、契約社員5.4%、派遣社員2.2%、嘱託2.2%、 その他2.2%となっています。
■このような非正規雇用の増加・多様化傾向のなかで、非正規雇用問題は、 大きな社会問題として広がっており、主な問題点として次の3点があげられます。
■これらの3つの問題は、 正社員を中心として発展してきた長期雇用慣行、年功的待遇、企業別組合を 「三種の神器」とする日本的雇用システムの裏面として存在してきたものと言えます。
■その他にも、非正規労働者の方が正規労働者よりも心身症状(ストレス)が大きいことも示されており、 また結婚機会の格差につながっていることも大きな社会問題となっています。
<「雇止め」の問題について> ■有期労働契約(1年契約、2カ月契約など期間が定められている契約)の場合、 引き続き働くためには、契約期間終了の都度、契約更新の手続きが必要となります。
■その際、労働者としては今の仕事を続けたいのに、会社から 「今回の契約で労働契約は終了とし、契約更新はしない」と一方的に 通告されてしまう「雇止め(実質上の解雇)」の問題が拡大しています。
■特に平成30年4月以降は、無期転換ルールが実質的に始まったことにより、 通算5年となる直前での「雇止め」の問題が頻発しています。
⇒この「雇止め」を規制する法律が、「労働契約法 第19条」という法律になります。
⇒[労働契約法 第19条の条文] (※改行、下線・カッコ書き追加) 有期労働契約であって、次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が 満了する日までの間に、 労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後 遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、 使用者(会社)が当該申込みを拒絶することが、 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、 使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で 当該申込みを承諾したものとみなす。 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、 その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより 当該有期労働契約を終了させることが、 期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより 当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると 認められること。 二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に 当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が あるものであると認められること。
■すごくわかりにくい文章ですが、特に「二」という部分の「第19条2号」について、 ごくごく簡単な言葉で言い換えますと、「雇止め」はいつでも許されるわけではなく、
⇒「『当然今回の労働契約は更新されるだろう、と期待するのも もっともだよね。』 と第三者が認めるだけの「ちゃんとした理由」がある場合には、 会社は、契約更新を拒否することはできない」 という内容になります。(きわめてザックリとした表現ですが・・・)
■「契約更新を期待する合理的な(もっともな)理由」とは、例えば、 ・今までの更新手続きでは、当たり前のように無条件で契約更新されてきた。 ・上司から「長く勤めてくれ、辞めないでくれ」と期待させる発言があった。 ・更新手続きがいつも形式的で特に何の説明もなく、ただサインをするだけの 儀式に過ぎなかった。 などのケースが考えられます。
■ただし、実際に合理的な理由に当たるかどうか(雇止めが許されるか否か)は、 その他の様々な状況も確認した上で、雇用契約の内容なども加味して、 総合判断(裁判所)されますので、その点は十分ご留意ください。
<正規・非正規労働者間の待遇格差の是正について> ■「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、少し先になりますが、 2020年4月から(中小企業は2021年4月から)、 「パートタイム・有期雇用労働法」という法律が整備される見込みです。
■この法律により、 「パートタイム・有期労働者」と「正規雇用労働者」の間の不合理な待遇の相違(格差) が禁止されます。
■これは、どんな時でもまったく同じ待遇にしなさい、ということではなく、 〇職務内容がこれからもずっと正規社員と同一と見込まれる 短時間・有期雇用労働者については、 短時間・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取り扱いを禁止しますよ。 〇また、職務内容に差があるのであれば、待遇に差を設けることは可能だけど、 不合理な(理由の説明できない)待遇格差は認めませんよ。 という内容になります。
■例えば、 ・正規社員には通勤費を払うのに、パート従業員には通勤費を払わない。 (正規であってもパートであっても、通勤交通費がかかることに差はない) ・正規社員は食堂を使用できるけど、パートは食堂を使えない。 (パートだけ食堂を使わせないことに納得できる理由がない) などがあげられます。
■ただし、同一労働同一賃金の詳しい判断基準は、今後厚生労働省から 「同一労働同一賃金ガイドライン」が示される予定、とのお話でしたので、 ガイドラインが発表されてから改めて詳細をご確認ください。
※わかりやすい文章とするために、 法律用語・言い回しを平易な表現にさせていただいております。 |