★東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授による労働法学研修(第十回)を受講いたしました。
◇今回のテーマは、 「労働時間」 についてでした。
◆「労働時間」とは? (以下の2つの条件を両方満たす時間とされます。) ①使用者(会社)の「指揮命令下」に置かれていると「客観的に」認められる時間。 ⇒就業規則や労働契約で定められた形式上の時間だけではなく、 「実態がどうだったか」によって判断されます。 したがって、手待ち時間、電話番の時間、準備・片付けの時間なども、 業務上の必要性によっては労働時間に含まれる場合があります。(状況によります。)
②業務遂行と同視し得る状況にある時間。 ⇒業務と無関係の時間は、労働時間とはみなされないということを言っております。 (こちらも実態によります。)
◆「労働時間」は、賃金とならんで労働者にとって最も重要な労働条件の1つとされます。 ◆この「労働時間」に規制を加えることは、国の重要な労働政策の一つとされてきました。
◆日本の労働時間法制の問題点 ①日本の労働時間法制が、 集団的に働く工場労働者を念頭に置きながら「定型的」な規制を課す、 という視点で作られており、現代の多様化する労働に対応できなくなっていること。 ②日本固有の問題である「長時間労働」により、過労死・過労自殺を生み出していること。
◆労働時間の規制(労働基準法)について 〇原則、会社は労働者を、1日8時間・1週40時間以上働かせてはならない、 と定められています。(例外あり) 〇ただし、労使協定(労働者代表と会社代表の協定)を結べば、 協定で定めた内容の範囲内で、割増賃金(いわゆる残業代など)を支払うことで、 上記の原則を超えて労働させることができる、と規定されております。
◆実際には、その協定が結ばれずに残業や休日労働が行われている場合や、 協定の内容が守られずに残業や休日労働が行われている場合も散見されます。
◆また、「管理監督者」に当たる場合は、一部の労働規制が適用されない(適用除外)となりますが、 ◆以前、大きく報道されました通り、「名ばかり店長」「名ばかり管理職」の問題も発生しております。 ◆裁判では、この「管理監督者」としての、労働時間規制の適用除外は、 なかなか認定されにくくなってきている、とのお話でした。 (「労働時間に応じた割増賃金を支払え」との判決が多くなっているとのことです。)
◇上記とは別に、よく問題になる「固定残業代(定額残業代)」について
◆最初から、一定時間分の残業代が通常の賃金に含めて支払われる場合や、 一定額の手当(名目は業務手当、営業手当など会社により様々です。)に含めて 残業代が支払われる場合があります。
◆これが固定残業代(定額残業代)と呼ばれる制度で、多くの会社が導入しています。
◆そもそもこの「固定残業代(定額残業代)制度」は違法ではないのでしょうか? ⇒きちんとルールを守って実施し運営される「固定残業代(定額残業代)制度」は、 裁判でも認められております。
◆では、どのようなルール・運営が必要なのでしょうか? (後々のトラブル回避も含めて) ⇒①就業規則、賃金規定、労働契約などにおいて、固定残業代(定額残業代) の導入が規定されていること。 ②「通常の賃金部分」と「時間外(残業)割増部分」の賃金の額が明確に区分されていること。 ③労働基準法のルールに基づいた割増賃金が、 定額部分に含まれる割増賃金額を上回った場合は、その差額を支払うこと。 (今までの支払実績が見られます。当然、正確な労働時間の管理が前提となります。)
◆したがって、固定残業代(定額残業代)制度は、 固定額で残業代をすでに支払っているのだからそれ以外一切残業代を払わなくても良い、 という制度ではありません。 ◆「固定残業制の場合は、後から残業代は一切払わなくて良い」と勘違いしている会社が 非常に多い、とのお話でした。
◆また、ハローワークで募集をかける場合は、 固定部分に含まれる労働「時間数」の明示も必要とされます。
☆固定残業代(定額残業代)制度は、 ただ就業規則・賃金規定・労働契約などで定めれば自由に実施して良いというわけではなく、 裁判でもきちんと認められるためには、 実際の運営状況(労働時間管理、割増賃金差額の支払い実績など)も非常に大切である、 ということになりますのでご留意ください。
※わかりやすい文章とするために、 法律用語・言い回しを平易な表現にさせていただいております。
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