★東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授による労働法学研修(第十一回)を受講いたしました。
◇今回のテーマは、 「年次有給休暇」と 「労災補償」 についてでした。
□<「労災補償」について>
■<「労働法」について> (労働法学/水町勇一郎先生著より抜粋) ◆「労働法(労働基準法・労働契約法など)」誕生の背景。 ・「労働法」が誕生した背景には、 労働者の肉体や精神等の人間性を保護すべき要請が強く働いていました。
・中でも、労働者が働く上でその安全や健康を確保することは、 労働法の原点の一つといえます。
■<「労働安全衛生」と「労災補償」 の関係について> ◆労働者の安全や健康を確保するための法政策として、まず何よりも、 労働者のけがや病気(労働災害)の発生を事前に防止する「労働安全衛生」が重要となります。
◆そして、予防措置を尽くしても不幸にして生じてしまった労働災害に対して、 事後的に救済を講じる「労災補償」がもう1つの重要な柱となります。
■<「労働安全衛生」について> ◆昭和47年に労働基準法から独立する形で、「労働安全衛生法」という法律が制定されました。
◆この「労働安全衛生法」という法律は、 職場における労働者の安全と健康の確保を目的とするとともに、 快適な職場環境の形成を促すことも目的とした法律です。
◆この目的を実現するために、会社には、
(完全管理者、衛生管理者、安全衛生委員会の設置など)
(危険物から生じる危険の防止など)
(有害物の使用禁止、安全装置の設置など)
(安全教育研修の実施、健康診断の実施義務など)
を行うことが義務付けられております。(規模要件等による例外もあります。)
◆そして、「労働安全衛生法」とは別に、「労働契約法」という法律で、 「使用者(会社)は、労働契約に伴い、 労働者のその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、 必要な配慮をするものとする」 という「安全配慮義務」が、会社に対して義務として定められております。
◆この「安全配慮義務」を会社が怠った場合、 労働者は、使用者(会社)に対して、 債務不履行責任を問うこと(会社は定められた義務を果たしていない、と問うこと) が認められております。
■<「労災補償」 について> ◆労働者が働いていてけがや病気などの災害が発生した場合、 労働者・そのご遺族を救済する制度として「労災補償制度」が設けられました。
◆労災補償制度は、労働災害が発生した場合に、 ケガした労働者又はそのご遺族が、 会社に対して賠償請求するのではなく(直接請求することも可能です)、 政府(労働基準監監督署長)に対して労災保険の請求をし、 支給するかどうか、支給するならいくら支給するのかを、 政府(労働基準監督署長)が決定する、という制度です。
◆「労災保険」は一部の例外を除いて、ほぼすべての日本中の会社が対象となります。
◆また、労災保険の「保険料(掛け金)」は会社が国に納めなければならないものですが、 たとえ会社が保険料を滞納していたとしても(払っていなかったとしても)、 労働者は、労働基準監督署に対して、労災保険の請求をすることができます。 (その場合は、会社にペナルティが行く制度となっています。)
◆加えて、アルバイトであっても、外国人であっても、不法就労者であっても、 会社に雇われて働いていれば(指揮命令関係があれば)、 給料の金額や労働時間の多寡に関わらず、労災保険の対象となります。
■<労災保険の「業務災害」に当たるかどうかの判断について>(通勤災害は今回省略します) ◆その事故が「業務災害」と認められるためには、 「業務遂行性」と「業務起因性」という両方の要件を満たす必要があります。
≪「業務遂行性」=業務時間中に起きた災害と言えるか?≫
2.宴会や運動会の最中の災害であっても、 参加が事実上強制されている場合には、原則として、業務遂行性が認められます。
3.出張中の災害については、 移動中や宿泊中など職務を遂行していない時間であっても、 業務上の都合からそのような状態に置かれていることから、 原則的に、「業務遂行性」が広く認められています。
≪「業務起因性」=業務が原因で起きた災害と言えるか?≫ 1.業務遂行中の災害であっても、それが業務によるものではなく、 自然災害や犯罪行為などの「外部の力」に起因して生じた災害の場合には、 「業務起因性」が否定され、「業務災害」と認められないことになります。
■では具体的に、次の場合は労災保険の対象になるのでしょうか?(一般論です) ①会社の歓送迎会の最中に転んで骨折した場合。 →参加が事実上強制されている場合は、業務遂行性が認められ、 原則的に、労災保険の対象とされます。
②出張中に宿泊していたホテルで酔って階段を踏み外して転倒負傷した場合。 →移動中や宿泊中など、職務を遂行していない時間であっても、 業務上の都合からそのような状態に置かれていると判断できる場合は、 原則的に、業務遂行性が認められます。
③地震によって会社建物が倒壊し、その下敷きになって負傷した場合。 →自然災害などの「外部の力」に起因している場合には、 「業務起因性」が否定され、 「業務災害」と認められないことになります。 →ただし、被害を受けやすい場所で働いていた場合など、状況によっては 労災保険の対象になる場合もあるとのお話でした。
※上記①②③はすべて、原則的な考え方のみを簡単に例示したものです。 実際に労災保険の対象になるか否かは、 個別の状況を確認したうえで、労働基準監督署長により判断がなされます。 必ずしも上記の通り判断されるわけではありませんので、その点は十分ご留意ください。
□過重な心理的負荷によるうつ病などの精神障害の労災認定について
◆精神障害の業務起因性に関する行政認定は、次の3つの要件に基づきなされています。 ①対象疾病(精神障害)を発病し、 ②発病前おおむね6カ月間に業務による強い心理的負荷が認められ、 ③業務以外の心理的負荷および個体側要因(個人の特質)により発病したとは認められない、 という3つの要件を充たした場合に、 労働災害にあたる(労災保険の対象になる)とされております。
◆この認定基準では、 心理的負荷の強度を「弱・中・強」の3段階に分類した「業務による心理的負荷評価表」 というものが定められており、総合評価で「強」と判断された場合に、 強い心理的負荷の要件を満たす、と判定されます。
◆ただしこの認定基準は、 あくまで労災保険認定のための「行政内部の基準」に過ぎず、 裁判所の法的判断を直接拘束するものではありません。
◆したがって、 労災保険に請求したけれど「不支給(労災保険がもらえない)」と判断されたケースであっても、 裁判を行った結果、裁判所が「労災保険の支給対象になる(労災保険がもらえる)」 と異なる結果を判決すること「も」ある、とのお話でした。
◆当然ですが、裁判をしたからと言って、すべてのケースで結果が覆るわけではありませんので、 その点は十分ご留意ください。
※わかりやすい文章とするために、 法律用語・言い回しを平易な表現にさせていただいております。
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