★東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授による労働法学研修(第四回)を
受講いたしました。
◇今回のテーマは、 ①「職務遂行の過程で発生する損害賠償責任」と ②「就労請求権」 についてです。
■仕事をしていれば、ミスや不注意な行動などによって、 会社に損害が発生してしまうことはしばしば起こります。 ■その場合、 「お前のせいで会社に損害が発生したのだから弁償しろ!」 と会社は従業員に対して損害賠償を請求できるのでしょうか?
◆民法415条では、 債務者(従業員)がその債務(労働義務)の本旨に従った履行をしないときは、 債権者(会社)は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる、 と規定されております。
◆しかし、従業員は会社の指揮命令の下で働いていて、その分、 会社も危険発生について責任を負っていると言えます。 ◆また、仕事をしていて生じるリスクは、事業活動から利益を得ている会社が 負うべきである、という考え方からも、 「不利益をすべて従業員に負担させるのは公平性を欠いている」と考えられます。
◆裁判例では、従業員に「故意又は重大な過失」(例えば飲酒運転や犯罪行為など)が ある場合に「のみ」、会社は従業員に損害賠償を請求できる、との判断をしている とのことです。
◆また、従業員の重大な過失によって損害が発生した場合でも、 全額を従業員が弁償しろ、ということではなく、 その損害の1/4~1/2程度を従業員に弁償させる(払わせる)判決が多い、 とのことでした。
②<就労請求権について>(「仕事をさせてくれ、と会社に要求する権利」) ■労働することは、従業員が労働契約に基づいて負っている「義務」になります。 ■では、従業員は会社に対して、 「仕事をさせてくれ、と要求する権利」(「就労請求権」) を持っているのでしょうか?
◆通説的な見解は、 従業員の就労請求権は一般的に(判例では)認められていない、とのことです。 ◆つまり、従業員にどのような仕事をさせるのかさせないのかは、原則、 会社が自由に判断できる、ということになります。
◆ただし学説(学者さんたちの意見)では、 労働は単に賃金獲得のための手段であるだけでなく、 それ自体が自己実現・人格発展という目的であるとして、 「就労請求権」を原則的に認めるべきである、 とする有力な見解もあるそうです。
◆水町先生は、 この問題は、個々の労働契約において、どのように権利義務が設定されているか を探求することによって決定される「個別の契約の解釈の問題である」 との見解を示されておられました。
※わかりやすい文章にするために、 法律用語・言い回しなどを一部代えさせていただいております。 |